本年度の研究実施計画に基づき、ハナカマキリの体色を形成する色素分子の生化学的解析を行った。昨年度の研究により、ハナカマキリ体色の赤色色素としてキサントマチンを同定したが、色素の抽出条件およびHPLCによる分離条件を検討した結果、ハナカマキリの色素抽出物には通常型のキサントマチンのほかに、分子上のカルボキシル基を1つ欠失した脱炭酸型のキサントマチンが含まれることを見出した。赤と黒を基調とした体色を持ち、カメムシ幼虫に擬態しているとされるハナカマキリの1齢幼虫では、相対的に多量の脱炭酸型が含まれていた。一方、花に擬態する2齢幼虫以降のステージでは、脱炭酸型キサントマチンの含有比率が次第に低下すると判明した。1齢幼虫の赤色部位はやや黄色味がかった赤色であるのに対し、後期幼虫の赤色部位は紫がかった赤色をしており、この色調の違いはキサントマチンの通常型と脱炭酸型の含有比率の違いによって生み出されている可能性が考えられた。また、ハナカマキリ後期幼虫の脚部にある花弁様構造の反射スペクトルを測定した結果、534nm付近に吸収ピークをもつスペクトル形状を示した。これは中性バッファー中における酸化型および還元型キサントマチンの吸収スペクトル(吸収極大波長はそれぞれ440nmと495nm)とは大きく異なる一方、還元型キサントマチンの凝集体の懸濁液の吸収スペクトルとは良く似た形状を示した。以上の結果から、ハナカマキリの花擬態に特有の赤紫色は、還元型キサントマチンが組織内に凝集体として存在することによって形成されていると推測された。
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