ミクログリアのNMDA処置に伴うグルタミン酸を介した神経伝達の障害に対する改善作用を検討するため、海馬スライスを用い、細胞外電位を測定した。10分間のNMDA処置により細胞外電位の消失が認められ、NMDAのwashout後も反応は消失したままであった。一方で、ミクログリア培養上清(MCM)の存在下ではNMDAのwashout後、細胞外電位は回復した。また微小電極法により膜電位をモニターしたところ、NMDA処置により認められた不可逆的な脱分極はMCMにより抑制され、静止膜電位まで回復が認められた。NMDA処置により樹上突起の形態変化が認められ、この形態変化はNMDA処置1分後から認められた。MCM中に含まれる樹上突起の形態変化を抑制する因子について検討を行ったところ、熱抵抗性で、3kDa以下の分子量の物質が活性を持つ事が明らかとなった。またこの因子は親水性の性質をもつ物質であることが明らかとなった。これらのことから、ポストシナプスに直接ミクログリアが作用する事で神経に対して保護的に働いている事が明らかとなり、ミクログリアは過剰な神経伝達を抑制し、正常レベルまで神経伝達を改善している事が明らかとなった。これまでの研究において、ミクログリアの神経に対する障害的な面が非常に強く言われてきたが、神経伝達の調節、神経保護の面でミクログリアは非常に重要な役割を果たしている事が明らかとなった。以前、末梢より注入したミクログリアが中枢に移行し、プレシナプスを介したメカニズムで神経変性の改善作用を示す事を報告したことからもミクログリアの神経伝達の調節に対する重要性が考えられる。これらのことからミクログリアの産生分泌する液性因子は神経変性疾患の解明または治療を行う上で重要な物質的基盤として提示できるものと考えている。
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