現在の医療では臓器の損傷・疾患の治療には、人工臓器や臓器移植による臓器置換療法が試みられている、しかし、人工臓器では、臓器の機能を完全に代替することは難しく、また、臓器移植にも、免疫拒絶反応や感染、移植臓器の不足といった問題がある。このような状況下、ES細胞やips細胞を用いた「再生医療」には、大きな期待が寄せられている。しかし現在のところ、多種多様な細胞の立体的な集合体である臓器の発生過程を、試験管内で再現することが困難であるため臓器そのものの再生は実現していない。そこで私はES細胞を特定の臓器を欠損したマウスの胚に注入し、発生過程へと寄与させることで、臓器レベルでの空きを利用したES細胞由来臓器再生法を確立した。 具体的に臓器欠損モデルとして腎臓を欠損する表現型を持つSalllノックアウト(KO)マウスあるいは膵臓を欠損するPdxl KOマウスを用いた。それらの胚へES細胞を適当量注入することで、それぞれほぼ完全にES細胞由来の細胞からなる腎臓および膵臓の構築に成功した。それらはいずれも形態的に見ても正常な個体の臓器と遜色なく、免疫染色技術を用いた詳細な組織学的解析においてもES細胞由来の組織はそれぞれの機能マーカーを発現していることが明らかとなった。さらにPdxl KOマウスでは、本来1週間以内に死亡するという表現型を持っているにも関わらず、このような方法でES細胞由来の膵臓を体内に構築すると成体においても正常な耐糖能を有し、半年以上に渡る長期の生存が認められた。このことからも構築された膵機能の正常性が強く示唆される。 今後の展開としては、まずマウスのような小型の実験動物レベルでこのような臓器構築法を用いた一連の治療モデルを確立し、ゆくゆくは大型動物あるいは異種間での臓器構築を目指す。
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