本研究の目的は、ダイオキシン(TCDD)の汚染マーカーとしての重要性を広く認められながらその存在意義さえ不明であったチトクロームP450(CYP)分子種のダイオキシン毒性における新たな役割を明らかにすることである。最近、TCDDなどで誘導される新規CYP分子種としてCYP1C1および1C2が魚類で同定された。しかしながら、これらCYP1Csの役割については明らかにされていない。我々はこれまで、TCDDやβ-naphthoflavone(β-NF)によるAh受容体(AhR)の活性化が受精後50時間(50hpf)のゼブラフィッシュ胚において中脳血流遅延を引き起こすことを見いだし、有用な発生毒性モデルであることを報告してきた。そこで本年度は、AhR活性化による中脳血流遅延に対するCYP1C分子種の役割について検討した。モルフォリノアンチセンス法によるAhR2ノックダウン処置でTCDDおよびβ-NF誘発性の中脳血流遅延は有意に回復した。中脳血流遅延はCYP1C1ノックダウンでは回復しなかったものの、CYP1C2ノックダウンによって有意に回復した。また、標的配列の異なるモルフォリノを用いたCYP1C1および1C2のノックダウン処置でも同様な結果が認められた。リアルタイムRT-PCR法によりCYP1C1およびCYP1C2のmRNA発現量を測定したところ、50hpfまでに両分子種の誘導が確認された。以上の成績はTCDDによる中脳血流遅延に、AhR2を介して誘導されたCYP1C2が関与することを示唆している。
|