研究概要 |
空間的に離れた物体が適切な時間間隔で交互に提示されると運動が知覚される.仮現運動と呼ばれるこの現象では,物理的入力の存在しない運動軌道上に内的な物体表象が形成される.本研究では,運動軌道上の物体表象がどのような奥行き情報を保持するのか調べた.陰影および両眼視差によって定義された3次元的な仮現運動物体の運動軌道上に,凸,凹,平らのいずれかの奥行き情報を持つ物体(プローブ物体)を瞬間提示し,プローブ物体の奥行き情報が知覚された運動の滑らかさに及ぼす影響を検討した.仮現運動する物体が凸図形の時,平らなプローブ物体が提示された条件で,凹の物体が提示された条件よりも滑らかな動きが知覚された.運動する物体と同じ奥行きを持つ凸ではなく平らな図形が提示された時に最も滑らかな動きが知覚され,運動する物体と逆の奥行きを持つ凹物体で動きの滑らかさが阻害されたこと,さらに仮現運動物体が凹図形の時にはプローブの効果は見られなかったことなどから,仮現運動物体表象は特に凸に関して,2次元と3次元との間の中間的な奥行き情報を持つことが明らかとなった.また,運動物体の消失位置に関する運動方向側への定位位置ずれ量(representational momentum; RM)に関して,物体同一性が維持されている時にはRM量が多くなるという特性を利用した検討からも,同様の知見を見出した.さらに,凸の仮現運動物体が提示される事態において,その運動軌道上に低空間周波数成分優位のぼけた凸図形を提示した条件では,凹図形を提示した条件よりもRM量が多くなった.この結果は,2次元と3次元との間の中間的な奥行き情報を持つ物体表象は,低空間周波数成分優位の処理によって実現されることが分かった.
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