研究概要 |
群集内で作用する相利共生の動態について考える場合,相利共生を多種が関わる相互作用系として捉えなければならない。そこで本研究では、マメアブラムシとアリとの共生関係を材料とし、局所的なアブラムシの天敵群集との相互作用によってアブラムシとアリの共生関係が推移し、そのような共生の変異にアブラムシの共生細菌が関与するという仮説を検証することを目的とした。まず、日本国内17カ所で、マメアブラムシとアリの共生関係の地理的パターンと、アブラムシコロニーに訪れる天敵の種類組成を調べた。その結果、アリを随伴していたアブラムシの割合は場所によって大きく異なり、アリを随伴しているコロニーほど、上位捕食者であるテントウムシ類の出現頻度が低く、寄生蜂による寄生率は高かった。これらの結果は、アブラムシに随伴するアリが局所的な天敵の群集構造を変化させることを示唆するものである。次に、アリの随伴頻度の異なった佐賀市と大津市からマメアブラムシを採取し、いくつかの形質について比較した。その結果、佐賀と大津のマメアブラムシでは、生存日数や産子数などには違いがみられなかったが、佐賀よりも大津のマメアブラムシの方が誘引されるアリの個体数が多く、アリの誘引性は強かった。さらに、これらの系統では、(a)アブラムシの体表化学成分、(b)排泄する甘露成分、および(c)保有する共生細菌組成に違いがみられた。今後、各地でサンプリングしたアブラムシが保有する共生細菌組成を調べるとともに、共生細菌組成を変化させたアブラムシを作成し、アブラムシがアリを誘引することに影響すると予想されるアブラムシの体表成分と甘露成分に、共生細菌が関与するかについて実験的に調べる予定である。
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