研究概要 |
アブラムシの甘露には、(a)キーストン捕食者であるアリを誘引する、(b)土壌中で分解を担う微生物を増加させる、など生物群集々生態系に対して大きな役割がある。このため、アブラムシの甘露タイプとアリ随伴能力の種内変異を明らかにすることは,個体の適応と生物群集、さらには生態系機能を繋ぐ上で重要である。そこで本研究では、まず、アブラムシの甘露タイプやアリの随伴能力における種内変異の存在を確認するために、日本各地から採取した21クローンのマメアブラムシを用いて、彼らの増殖速度、甘露タイプ、アリの随伴能力について調べ、マイクロサテライトマーカーによる遺伝型の分離を試みた。加えて、アブラムシには複数種類の共生細菌を保有するものがみられ、これらの共生細菌の存在によって、アブラムシの代謝経路は変化することが知られている。そこで上述のアブラムシの内部共生細菌組成(絶対共生細菌と任意共生細菌)について調べ、任意共生細菌がアブラムシの甘露やアリの随伴能力を変化させるかについて検証した。その結果、 (1)マメアブラムシには、スクロースを多く含む甘露を排泄するタイプ(以下Suc型)とメレジトースを多く含む甘露を排泄するタイプ(以下Mel型)の2つの生態型が存在する。 (2)Suc型のマメアブラムシより、Mel型のマメアブラムシの方が増殖速度は低い。 (3)Suc型のマメアブラムシより、Mel型のマメアブラムシの方がアリの随伴能力は低い。 (4)マイクロサテライトマーカーを用いた遺伝解析では、上記のSuc型とMel型のマメアブラムシを分離できない。 (5)マメアブラムシには、任意共生細菌であるArsenophonusが感染するクローンがみられる。 (6)任意共生細菌であるArsenophonusは、ホストであるアブラムシの増殖速度や甘露成分、およびアリの随伴能力に影響しない。 という結果を得た。
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