酵母分子ディスプレイ法を用いて酵母の細胞表層にディスプレイすることで酵母の酸に対する耐性が向上するペプチドの酸耐性賦与メカニズムの解明を目指して研究を行った。まず、ペプチドが細胞膜に局在するタンパク質と相互作用して細胞内プロトン濃度の恒常性維持に関与していると考え、タンパク質の架橋剤を用いて相互作用相手の同定を試みた。さらに細胞内イオンの恒常性維持に関わると考えられる膜タンパク質の欠損株にペプチドをディスプレイし、ペプチドの有無による酸耐性の変化がない、つまり相互作用相手が欠損しているために耐性化されない株の探索を行った。しかしながら、現段階ではいずれの方法においても相互作用している可能性のあるタンパク質は検出できておらず、別のメカニズムの可能性を示唆するものとなった。そこで、ペプチドが表層の性質を変化させることによって酸耐性を賦与しているのではないかと考え、細胞壁溶解酵素であるザイモリエースを作用させ、細胞壁の強度を調べた。その結果ペプチドをディスプレイした酵母ではザイモリエースに対して感受性になっており、ペプチドによって細胞壁が緩くなっていることが分かった。さらにグルコースを取り込む能力を調べたところ、ペプチドをディスプレイした酵母の方が高いことが分かった。つまり、細胞壁の強度、グルコースの取り込み能力、酸耐性の3つに相関関係があることを示唆している。この新規ペプチドのさらなる分子機能の解析によって、細胞表層の人為的改変による酵母のより強い酸耐性化が可能になるだけでなく、機能性ペプチドのスクリーニングにおける新しい手法の開拓にもつながると考えられる。
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