研究概要 |
オキナワベニハゼTrimma okinawaeは、周りの社会環境を操作する事により容易に雄から雌へ、あるいは雌から雄へと両方向に性転換させることのできる極めて優れた実験魚である。社会環境変化の情報は、視覚を通じて脳→脳下垂体→生殖腺→泌尿生殖突起へと伝わると考えられる。 オキナワベニハゼの性差は、最終的に泌尿生殖突起に表れる。突起の外部形態は雄と雌とで明確に異なる。雄では細く長い、雌では太く短い。突起は性転換に伴い雌型から雄型、雄型から雌型へと短期間で劇的に変化する。このオキナワベニハゼの泌尿生殖突起の変化は生殖腺由来の性ステロイドホルモンによって調節されていると考えられる。そこで性ステロイドホルモン受容体を卵巣由来のcDNAライブラリーから単離した。その結果、3種類のエストロゲンレセプター(ERα,ERβ1,ERβ2)と2種類のアンドロゲンレセプター(ARα,ARβ)をクローニングした。今後、これらのレセプターが泌尿生殖突起において性転換時にどのような役割を担うのか解析する。 またオキナワベニハゼの性転換時における生殖腺内での遺伝子変化を網羅的に調べるため卵巣のRNAを用いてV-キャッピング法による完全長cDNAライブラリーを作製した。得られたライブラリーは、サイズが1.1x10^6、インサート率が96%、完全長率が88%と非常に良質であった。今後、作製したライブラリーを用いたESTデータベース・DNAマイクロアレイにより、性転換過程に発現する遺伝子の単離を網羅的に行う。 オキナワベニハゼを扱う上での欠点として、サンプル数の確保が困難な点が挙げられる。そこで非常に近い近縁種でありサンプル数の確保も容易なベニハゼTrimma caesiuraが両方向性転換の解析に使用可能かどうかを検討した。まず始めにベニハゼの組織学的観察を行った。その結果オキナワベニハゼと同じく、ベニハゼも同一個体内に常に精巣と卵巣を持つ事が確認された。また雄をペアあるいは雌をペアにした状態で飼育実験を行った結果、両方向の性転換が誘導された。以上の結果から、ベニハゼも両方向性転換の実験系に供することが可能だと考えられた。またオキナワベニハゼには雄特異的な性行動は観察されるが、雌特異的な行動は確認されていない。しかしベニハゼではオキナワベニハゼには見られない雌特異的な行動(雄の対し後方に飛ぶ行動)が観察された。このオキナワベニハゼにはない特徴を有したベニハゼは、脳の両方向性転換を解析していく上で優れた実験モデルになりうると考えられた。
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