研究概要 |
本研究の主要目的は,感温磁性体を用いることにより,自働温度制御機能を持たせ,さらに磁性体を金属環で取り巻いた構造の発熱素子を用い,体外から高周波磁界を印加するソフトヒーティング法の実現を目指している.今回は,ハイパーサーミアの有効性が知られているメラノーマ(悪性黒色腫)に対して我々が手掛けている複合型発熱素子を刺入し,高周波磁界を印加することによる腫瘍抑制効果の確認と,埋込デバイスの小型化を目指した感温磁性粉末によるソフトヒーティング法の可能性を検討した. 検討事項としては,Ni-Cu-Zn系フェライト(0.6mm×0.6mm×10mm,キュリー温度:70℃)と金属環(材質:Au,厚さ:0.002mm)から構成される複合型素子を2本あるいは4本用い,マウスの腫瘍(マウスB16-melanoma,腫瘍サイズ:直径約10mm程度)に対して加温実験を行った.マウスは,それぞれの条件(素子本数)に対して3匹ずつ使用している.励磁条件は,周波数200kHz,磁束密度3mT,加温時間は20分とした.素子は,5mm間隔に配置した.加温後,腫瘍サイズの測定を1週間行った.加温を行っていないマウスは腫瘍が増殖し,七日後にはそのサイズが10倍程度にまでなっているのに対し,加温を行ったマウスの腫瘍は,2本刺入した場合ではコントロールよりも腫瘍の増殖が66%程度に抑えられている.さらに4本刺入した場合では,腫瘍縮小効果が顕著に現れており,中には,腫瘍の増殖が1週間もの間抑えられているマウスも存在した.以上より,今回用いたサイズ程度の腫瘍であれば,4本刺入して加温することで優れた腫瘍抑制効果が得られ,本方式の実用化検討に係る基礎事項の確認が行えた. 続いて,金属被膜型フェライト顆粒に関して検討を行った.Ni-Cu-Zn系フェライト粉末(一粒子のサイズ:約0.35-0.5mm,キュリー温度70℃)にAgペーストを焼き付けて金属被膜を形成した.被膜なしに比べて被膜がある発熱体は,高い温度上昇を示し,被膜ありの発熱体では,キュリー温度付近において温度制御機能が働いているのも確認することができた.このことから,粉末状のフェライト顆粒において金属被膜をもたせることで,温度制御と高発熱を実現できることが確認でき,発熱体の小型化が期待できる.
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