本年度は生理学的アプローチを導入したバイオテレメトリー手法を用いて以下の実験を行った。 I)サケ科魚類であるカラフトマス(Oncorhynchus gorbuscha)は産卵のため海から河川へ限られたエネルギーを使って遡上する。カラフトマスの雄は河川へ入ると成熟に伴い背中のこぶが発達するため、成熟個体は雌雄で形態が異なる。雌雄の形態の違いから遡上時の雄のエネルギーコストが雌に比べて高くなることが示唆されていが、これまで詳細な検証はなされていない。本研究では、electromyogram(EMG)発信機によるバイオテレメトリー手法を用い河川を遡上するカラフトマスの遊泳行動および密閉型水槽を用いて雌雄でエネルギーモデルを作成し、比較することを目的とした。標津川河口で捕獲されたカラフトマス(雄7尾・雌8尾)にEMG発信機を装着した後、標津川に実験魚を放流後、EMG発信機により河川内行動の軌跡および筋電位情報を受信機にて取得した。また、密閉型遊泳水槽を用いてEMG発信機を装着した実験魚(雄12尾・雌12尾)を各流速で遊泳させ、EMG情報および溶存酸素量を測定し、EMG情報から酸素消費量および遊泳速度を推定可能なエネルギーモデルを作成した。室内実験の結果から、流速と酸素消費量の関係は雌に比べて雄の傾きが大きかった(P<0.01)。さらに標津川を遡上したカラフトマスの遊泳速度および対地速度に雌雄差はみられなかったが、雄のSEI(Swimming Efficiency Index)は雌に比べて低かった(P<0.05)。つまり、カラフトマスの雄は雌に比べて遊泳効率が悪いことが示され、二次性徴による形態の雌雄差が遡上の際の遊泳効率に影響する可能性が考えられた。II)昨年までに明らかとなった産卵行動時におけるシロザケの心停止がどのようなメカニズムによって引き起こされているのかを明らかにするために、シロザケの自律神経系に着目し薬理学的な研究を行った。結果については現在解析中である。
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