ウィリアムズ症候群(WS)患者に対するコミュニケーションに関する研究では、従来語彙や文法などの言語の構造的側面についてよく研究がなされてきた。それらの研究では、言語の構造的側面という領域では、WS患者はそれほど問題を示さないという報告がされてきた。そこで、私は、語彙や文法などの言語の構造的側面ではなく、WS児がいかに言語を使用して相手とうまく意思疎通できるかという言語の語用論(機能)的側面について検討し、その研究成果の整理及び発表を今年度行った。具体的には、国際及び国内学会での発表、学会誌への投稿論文の準備という形で行った。 さらに、今年度は、新たな研究の準備及び実施を行った。1点目は、引き続き、WS児のコミュニケーション能力を機能的に分析するための課題の検討を行った。2点目は、コミュニケーションと関わる社会性について、特にWS児の他者理解について分析する課題の検討を行った。他者理解を分析する課題には、健常児を対象にしたMeltzoff(1995)の意図理解課題、Wellman & Liu(2004)の心の理論スケールを使用した。今まで、WS児の研究では、他者理解を分析する最も典型的な課題である誤信念課題において、彼らの他者理解の能力が検討された。しかし、他者理解の発達では、他者の誤信念理解に至るまで、いくつかの段階を経て発達するとされている。それらの段階が検査項目として含まれている意図理解課題、心の理論スケールを用いることで、WS児が他者理解に問題を抱えるかどうかの知見の再検討、また問題を抱える場合どの段階で特に問題を抱えるのかを明らかにすることができると考える。上記2実験は、現在、WS児・健常児双方を対象にデータを取得中である。
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