在来の融合性種(融合性種:同種の他巣間を個体が出入りできる種)エゾアカヤマアリ(エゾアカ)の巣仲間識別について、採用中断前からの研究を継続して行った。巣仲間識別の鍵とされる体表炭化水素(CHC)の同定が完了し、CHC成分用いて判別分析を行った。その結果、CHC成分比はスーパーコロニー(SC)(融合した巣からなる巨大なコロニー)内では類似していたが、SC内と外では大きく異なっていた。これは前年度の攻撃行動実験結果と電気生理学的実験結果と非常に整合性が取れた結果であり、この結果は海外ジャーナルに投稿中であり、平成21年3月の学会において口頭発表を行った。 クロオオアリ、エゾアカ、アルゼンチンアリ(アルゼンチン)のCHCの定量を、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。この結果、アリ1個体が持つCHC量が異なるという結果を得た。これは各種実験に用いるCHC量の決定上や、巣仲間識別のメカニズムにおけるCHCの存在意義の考察に重要な結果である。さらに電子顕微鏡を用いてアリ3種を撮影した。その結果、アルゼンチンの触角にもCHC感覚子と類似した感覚子が認められた。また、研究室でのアルゼンチンの飼育許可を得、飼育を開始している。 兵庫県のアルゼンチンの侵入報告をもつ数箇所から、越冬期後にアルゼンチンを採集した。この個体を用いて、室内外での攻撃性の実験を行った。室内ではCHCを塗布したガラスビーズを用いた攻撃性行動実験を開始し、室外では他巣個体に対する攻撃行動実験を開始し、今後データ数を増やす予定である。 クロオオアリにおいて、各種CHC(同種巣仲間と非巣仲間、アルゼンチン)に対するCHC感覚子からの電気生理学的な応答を取った。同種非巣仲間のCHCの他に。本来の生息地が異なるアルゼンチンのCHCに対しても応答が見られ、CHC感覚受容細胞の汎用性が考察された。 今年度は、アルゼンチンにおいて、これまで不明だった基礎的知見が多く得られた。これは巣仲間識別の考察の上で基盤となる知見である。
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