2009年4月から採用中断前までの期間で、エゾアカヤマアリ(エゾアカ)の論文は海外雑誌に投稿し、現在はリバイス中である。再投稿用に追加実験として行った、行動実験(精精した巣仲間識別の鍵とされる体表炭化水素(CHC)を用いた攻撃性実験)から、攻撃行動とCHCの関係性がより強く示唆されるデータが得られた。また電子顕微鏡によるエゾアカの触角の撮影写真からCHCを感知する感覚子(CHC感覚子)のカウントを行った。CHC感覚子は1個体あたり、クロオオアリでは平均366個の報告があるがエゾアカでは平均100個程度と比較的少数であることが明らかになった。 研究室での飼育体制を整えたアルゼンチンアリ(アルゼンチン)を用いて、神戸市に侵入したアルゼンチンを飼育、室内での行動実験を行った。融合性を持つエゾアカの体表炭化水素に対する攻撃能力、認識能力が、同じく融合性をもつ外来侵入種のアルゼンチンでも健在か検証した。アルゼンチンに同スーパーコロニーの巣仲間、異スーパーコロニーの非巣仲間、異種から抽出、精製したCHCを提示し、提示された個体が示した攻撃行動を観察した。方法はクロオオアリ、エゾアカで行った実験と同様の方法である。CHCは濃度を段階希釈して提示し、後続する電気生理実験での刺激液のCHC濃度を決定した。この結果、侵入地におけるアルゼンチンでもCHCと攻撃性の間に関係性があると強く示唆され、同種に対する攻撃能力および、認識能力が確認された。また、アルゼンチンでは提示するCHCによって行動が劇的に変化し、これまで記録されていない新たな行動が観察され、論文に投稿する予定である。電気生理実験にはアルゼンチンが非常に小型なためクロオオアリとエゾアカの2種で用いた方法が困難であり、2種と比較検討可能な新たな方法を模索中である。 本期間中でアルゼンチンにおける巣仲間識別能力が健在であると明らかになった。この結果から巣仲間識別能力の精度に関して今後発展させていく事が可能となった。
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