ユビキチン-プロテアソーム系によるタンパク質分解は基質特異性を持つことが特徴であり、その特性を担っているのはユビキチンリガーゼである。Fbw7はこれまで生化学的解析から、c-Myc、Notchなど細胞増殖を促進する分子を特異的に分解へ導くユビキチンリガーゼであることが知られている。また、多数の癌においてFbw7遺伝子の不活性型の変異が認められており、Fbw7が癌抑制遺伝子であることを強く示唆している。そこで、Fbw7の生理的基質分子を同定し、臓器特異的な機能を明らかにすることを目的として、胎仔線維芽細胞(MEF)および表皮角化細胞におけるFbw7コンディショナルノックアウトマウスの表現型を解析した。 Fbw7欠損状態では細胞増殖促進因子が分解異常のため過剰に蓄積し、細胞増殖が促進するとの予想に反し、Fbw7欠損MEFでは著しい増殖障害を呈した。Fbw7欠損MEFにおいては、これまで報告のある基質分子の中で、特異的にNotch1のみが著しい発現量増加を示した。さらにNotch1の機能抑制によりFbw7欠損時の増殖障害が解消された。すなわちMEFにおいてFbw7はNotch1の分解を誘導することを通じて正常な細胞増殖・生存に必須の因子であると結論づけられた。 Fbw7欠損表皮細胞では、MEFの場合と異なり、Notch1に加えて、c-Mycの発現量が亢進し、c-Mycの発現量増加に依存して増殖が促進していた。さらにFbw7の発癌における寄与を明らかにする目的から、Fbw7欠損表皮細胞をヌードマウスの皮下に移植し、腫瘍形成能を調べた。癌遺伝子である活性化型Ras遺伝子を強制発現した条件下においてFbw7欠損細胞は高率に腫瘍を形成した。すなわちFbw7は表皮における癌抑制遺伝子であることが強く示唆された。
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