前年度までから引き続き、骨芽細胞と破骨細胞が白血病細胞にどのような影響を与え得るかについて、in vitroの共培養系を用いて検討を行った。破骨細胞とマウス大腿骨由来骨スライス存在下において、BCR-ABL^+白血病細胞株の増殖は抑制されていたのであるが、7-AADとKi-67による細胞周期解析の結果、特に7-AAD low、Ki-67陰性のdormantな分画が増加していることが分かった。ELISAによる解析から、破骨細胞と骨スライス存在下において、骨に多く蓄積されたサイトカインであり、造血幹細胞の静止期維持に重要なサイトカインと言われているTGF-βが、破骨細胞、骨芽細胞のみの場合と比較して培養上清中に有意に増加しており、このことから破骨細胞が骨吸収に伴い骨基質から放出し、破骨細胞・骨スライスとの共培養による白血病細胞株の増殖抑制がTGF-βの作用によることが示唆された。よって、上記共培養系にTGF-β中和抗体を添加したところ、Ki-67陰性分画はわずかに減少したことから、TGF-β単独の作用ではなく、何らかの他の液性因子による影響も示唆された。これを裏付けるように、白血病細胞株にrecombinant TGF-βを添加しても、白血病細胞株の増殖は抑制されたもののKi-67陰性分画の増加は認められなかった。破骨細胞、骨スライス存在下で白血病細胞株にTGF-βシグナルが入っているかについて検討を行ったところ、recombinant TGF-β添加条件と同じく、Smad2蛋白のリン酸化が起こっており、TGF-βが実際にdormantな分画増加に関与していることが示唆された。 以上のことから、破骨細胞が骨吸収に伴い骨基質から骨髄微小環境中に放出するTGF-βが白血病細胞株をdormantな状態に誘導し、白血病細胞のdormancy、薬剤の細胞毒性からの保護、さらには化学療法後の微小残存病変にも関与している可能性が考えられ、破骨細胞含めた微小環境が白血病治療の新規ターゲットとなり得ることを示した。 本研究課題で平成19年度より特別研究員として行った上記研究成果については、学術論文として内容をまとめ、2009年8月にLeukemia Research誌にacceptされた。
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