20年度は、「半権威主義体制」とされるマレーシアにおける政治過程を制御する法制度について、理論枠組みを提示することを目指した。具体的には、経済政策についてさまざまな主体が利益表明する際の機会やその手法を制限するような内容を持つ法律の条文とその解釈、成立過程、適用対象についての知見をまとめた。「半権威主義体制」に関する既存研究では、マレーシアにおける法制度が、野党やNGO、少数派民族の利益表明機会を制限するものであり、経済政策をめぐる政治過程は、当然に政府、与党、多数派民族の意思が一方的に実現するものと論ぜられてきた。これに対して本研究は、実際には、マレーシアの法制度は、野党、NGO、少数派民族に対しても、制限はあるものの、経済政策をめぐり利益表明を行う機会を保障するものであることを、条文の内容、成立時の立法者意思、適用の事例から示した。さらに、法制度に関する以上の知見を、先行研究による法制度観、すなわち、政府や多数派の力に正当化根拠を持ち、恣意的に実施されるという特徴を持つ制度(「権威主義的制御モデル」)に対して、政府や多数派のみならず、野党や少数派も話し合いに参加しながら法制度が作られること、野党や少数派の権利をも保障するような形で実施されることを特徴とする「協議的制度モデル」として理論化した。この理論をいくつかの研究会で報告し、批判・コメントを受けたうえで、学術雑誌に投稿するための論文を執筆し、同じテーマの本の出版に向けても準備した。 また、法制度の特徴が明らかになったので、具体的な経済政策についての調査も始めた。この目的のために、昨年度は2月14日から23日かけてマレーシアのクアラルンプール、ペナンを訪問し、図書館・公文書館における調査に加え、専門家との議論を持った。
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