国内においては対馬、奄美諸島において、また海外では南米(エクアドル)においてアリヅカコオロギ属の採集を行った。これに加え、共同研究者の丸山宗利氏(九大博)から日本の小笠原諸島産、そしてヨーロッパ(ドイツ)産のアリヅカコオロギ属のサンプル提供を受けた事により、日本産アリヅカコオロギ属に関してはその分布上重要な地域ほぼ全てからのDNA解析用サンプルを入手することができた。さらに、ヨーロッパ産サンプルを得ての分子系統解析を行うことにより、よりグローバルな本属内における系統進化の歴史を生物地理的な視点から論じることが可能となった。 また、日本産アリヅカコオロギ属において寄主傾向に著しい差が見られる南西諸島の2種に関してアリ巣内における行動、複数種のアリ巣内における生存率の違いを検証し、属内におけるこれら性質の違いが寄主アリに対する効率よい搾取と、多数種の代理寄主利用の間のトレードオフに起因している可能性を示唆した。 さらに、寄主傾向の異なる2種のアリヅカコオロギに関して、寄主アリ巣内に生息する個体と寄主アリから一定期間隔離した個体とで体表炭化水素組成をガスクロマトグラフィーで分析し、特定寄主アリのみに寄生するスペシャリスト種は多数種アリに寄生するジェネラリスト種よりもアリと同一の炭化水素を体表に保持する能力が著しく高いことが判明した。この結果を基に、分子系統解析と関連させて属内の化学擬態システムの獲得法の変遷を検証することが可能になった。
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