【研究実績概要】 細胞実験:はじめに生体に近い培養系として、「癌増殖に伴う血管新生誘発」の擬似モデルの構築を行った。腫瘍細胞(ヒト大腸癌)であるDLD-1を培養し、培養上清を回収した。この培養上清にVEGFなどの血管新生促進因子が含まれていることを確認した。DLD-1培養上清を内皮細胞(HUVEC)に処理すると、内皮細胞の増殖、遊走、管腔形成が顕著に惹起されたため、この系を「癌増殖に伴う血管新生誘発」の擬似モデルとして活用できることがわかった。本系にトコトリエノール(T3)を加えると、増殖・遊走・管腔形成が強く抑制されることを見出した。以上より生体系に近い培養系において、T3の血管新生阻害物質としての実用性を明らかにすることができた。次にT3の抗血管新生メカニズムを評価するため、血管新生阻害に関わるタンパク質の発現とリン酸化をウエスタンブロッティング法で調べた。その結果、T3は血管新生促進因子(VEGF)由来のシグナル(PDK、Aktなど)を制御し、さらにVEGF受容体の活性を直接阻害することを見出した。T3が高濃度の場合は、アポトーシスに関わるタンパク質の発現を誘導した。本知見と、これまでに行ってきたメカニズム解析の結果を踏まえ、T3はVEGF受容体に由来するリン酸化カスケード活性を抑制するメカニズムで血管新生を阻害することが明らかとなった。 動物実験:DLD-1とマトリゲルの混合物(対照群)、これに濃度が異なるδ-T3を加えた混合物をヌードマウスの皮下に注入し一週間飼育した。その後にマトリゲルを摘出し血管新生の発生頻度を調べた。その結果対照群では、皮下でマトリゲルは塊状となり、ゲル内のDLD-1の影響でゲル内に新生血管が誘導された。この新生血管の誘導をT3は濃度依存的に抑制することがわかった。本結果は内皮細胞マーカーであるCD31に対する抗体を用いた免疫組織学的評価からも裏付けられた。
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