ブタ内在性レトロウイルス(PERV)の受容体同定に関して、申請書の計画通りパンニング法による候補分子の検索を行ったが、現在までのところ有力な候補が得られていない。これについては、cDNAライブラリーから発現される分子と精製したPERVのエンベロープ蛋白質の結合親和性が十分でないためであると考えられる。また、実験系において、エンベロープ蛋白質の培養用ディッシュへの固着が不十分であるのも一因と考えられる。現在、PERVエンベロープ蛋白質に対してより高い結合親和性を示す細胞の再検索とPERVエンベロープ蛋白質をより強固にプレートに固着させるために必要な抗体の作製を行っている。一方、PERVと非常に近縁であり、内在化機構、種間伝播メカニズム、及び病原性解析について非常に有用なモデルと考えられるコアラ内在性レトロウイルス(KoRV)について、4つのサブタイプ(A〜D)を新規に分離・同定し、それらについての宿主細胞域の評価を行った。このうち、新規に分離したKoRVサブタイプBが、転写活性・自己複製能ともに非常に高いことを明らかにした。また、この高い転写活性は、LTR内のU3領域に生じる縦列反復配列によるものであることを明らかにした。内在性レトロウイルスの再活性化と病原性の発揮という点で、PERVとKoRVにおいて共通点が多いが、KoRVの方がこれらの現象がより顕著であり、観察対象としてより有用であると考えられる。このことから、KoRVの性状解析により、PERVとの共通点と相違点を分析することは、PERVの感染機構及び病原性発揮のメカニズムの解明、異種移植の安全性を確保する上で非常に重要なものであると考えられる。
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