本研究課題では有機伝導体の結晶構造と物性を制御する方法論の確立を目的とし、さらに得られた知見をもとに有機デバイスへ応用可能な有機伝導体の新しい物質群の開拓を目指して研究を行っている。本年度は非常に安定な金属を数多く与える分子として有名なTTP分子を基本骨格とする新規ドナー分子の合成を行った。酸素官能基を有するドナー分子と比較化合物として合成した酸素官能基が無いドナー分子はいずれも一電子四段階の酸化還元挙動を示した。第一酸化電位の比較からごくわずかな差ではあるものの酸素官能基を有するドナー分子の方が電子供与性が強いことが分かった。新たに作製した伝導性有機結晶は室温から半導体的な振る舞いを示し活性化エネルギーは0.029eV(340K)であった。次に数多くの有機超伝導体を与えるBEDT-TTFにメトキシ基を導入した分子rac-DMOBEDT-TTFのClO_4塩を作製した。この塩は結晶中に複数の水素結合が形成され、このネットワークにより形成された空孔に結晶溶媒のクロロベンゼンが取り込まれている。このようなゼオライト状の結晶構造を利用することにより伝導性有機結晶に新たな物性を付与することが可能となる。 有機デバイス開発を目指し、有機電界効果トランジスタの有機半導体材料の開発研究を行った。本研究課題ではジチエノチオフェン骨格を有する新規オリゴチオフェン誘導体を合成し、有機トランジスタの作製・評価を行った。新規オリゴチオフェンを活性層として、Au電極または有機電極である(TTF)(TCNQ)電極をソース/ドレイン電極としたトランジスタ素子は典型的なp型のFET応答を示した。電界効果移動度は無置換の分子では3.2×10^<-2>cm^2/Vs(Au電極/トップコンタクト型)であり比較的高い値を示したが、アルキル置換体では無置換体に比べー桁低い特性を示した。AFM観察からアルキル置換体では薄膜の質が低下していることが示唆され、現在質の高い薄膜を作製するための検討を物質開発の観点から行っている。
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