本研究における研究目標は、更新世末における人類の行動形態の解明とその意義付けである。今年度の研究成果は、(1)九州全域を対象とした細石刃期の行動研究、(2)他地域石器群との比較による九州細石刃石器群の評価、(3)細石刃の機能に関わる研究である。 では、行動パターンの時空間的な変化を明らかにした。空間的には、石器技術と石材利用の差異から大きく南と北に区分され、またそれぞれの東西においても別集団の領域であるとし、時間的には、前半段階における画一性の高い技術とコアリダクション型の石材消費戦略に支えられた長距離移動型の行動パターンから、後半期における製作コストの抑えられた柔軟な石器製作とネットワーク化された遺跡間関係へという変化が導き出された。そして、この行動パターンを支えたのは、石器技術に対応した良質黒曜石の需要がその一端であることを想定した。このような行動パターンは九州では認められるが、他地域では必ずしも認められない。この相違の背景には石器技術系統と資源構造などの差異があるものと考えられる((2))。これに加えて明らかにしたのは、細石刃の機能的多様性である((3))。従来細石刃は植刃器の刃部として単一的な機能が想定されていたが、使用痕分析によれば多様な使用方法が明らかとなりつつある。これは、単に1遺跡の中でこうした差異が存在するだけでなく、地域ごとに異なった使用方法、すなわち地域的多様性が存在していた可能性を提起しうる。 こうした行動研究は、石器の編年研究と比較してほとんど議論されていないが、石器の背後にある人間行動の本質を明らかにする点で、本来最も取り組むべき研究である。本研究は、技術と石材利用、石器機能の分析からこれを体系的に論じた点で重要である。
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