本研究はスピン量子数が1/2および2/2のラジカル高分子を合成、磁性金属と非磁性金属を電極とした単層素子を作成し、磁性電極とラジカル高分子間での磁気抵抗効果の発現およびそのスピン多重度との相関を見いだすことを目的とする。本年度は、スピン量子数が1/2であるラジカル分子をもちいたスピンバルブ素子を作成し、極低温磁場中での電流電圧特性評価を行った。以下実施した具体的実験事項を示す。 1)電子ビーム蒸着法によるニッケル基板の作成、膜厚・酸化保護膜の検討 2)ラジカル分子(S=1/2)によるスピンバルブ素子の作成、SQUID磁束計内において外部磁揚中での抵抗値変化測定 3)TPD等の閉殻系ホール輸送材料をもちいた単層素子を作成・評価、ラジカル分子との比較 以上の実験から次の結果を得た。ラジカル分子を中間層、ニッケルを陽極、金を陰極としたスピンバルブ素子において最大で3%の負の磁気抵抗効果を発現した。金を陽極とした場合では磁気抵抗効果は観測されず、ラジカル分子と磁性金属間での電子スピンの散乱による磁気抵抗効果の発現が示唆された。また、TPDなどの閉殻系ホール輸送材料を用いた単層素子では磁気抵抗効果は観察されず、先の結果を支持した。これらの結果は、ラジカルによるホール輸送において電子スピンの方向が維持されることを示したものであり、ラジカル分子が将来、有機スピン輸送材料としとして有力であることを示す結果と考える。
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