本研究はスピン量子数が1/2および2/2のラジカル高分子を合成、磁性金属と非磁性金属を電極とした単層素子を作成し、磁性電極とラジカル高分子間での磁気抵抗効果の発現およびそのスピン多重度との相関を見いだすことを目的とする。本年度は、スピン量子数が2/2であるラジカル分子および非磁性金属電極からなるスピンバルブ素子を作成し、極低温磁場中での電流電圧特性評価を行った。また、ラジカル分子の安定な酸化還元能に着目し、色素増感太陽電池(DSSC)の電荷輸送媒体として適用、特性を評価した。以下実施した具体的実験事項を示す。 1)ラジカル分子(S=2/2)によるスピンバルブ素子を作成、SQUID磁束計内にて外部磁場中での抵抗値変化測定した 2)S=2/2を有するラジカル高分子の合成に向け重縮合モノマーを合成した 3)ラジカル分子(S=1/2)をDSSCの電荷輸送媒体として適用、特性を評価した 以上の実験から次の結果を得た。ラジカル分子を中間層、ITOおよび金を電極としたスピンバルブ素子において最大で2%の負の磁気抵抗効果を発現した。分子内スピン相互作用の有無により輸送される電子のスピン散乱過程が変化し、磁気抵抗効果が発現したものと考えられる。この結果は、ラジカルによるホール輸送過程において電子スピンの方向が制御・維持されることを示したものであり、ラジカル分子が将来、純有機スピン輸送材料として有力であることを示す結果と考える。また、ラジカルを用いたDSSCは変換効率が約2.5%であり、ラジカル分子の電荷輸送材料としての可能性を示唆した。
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