パルサー星雲の構造形成機構を調べるため、米国のX線天文衛星Chandraのアーカイヴデータを用いて、計8天体の詳細な分光解析を行った。これらの研究から得られた特に重要な成果は、若く活動的なパルサーPSR B1509-58の周囲で、パルサー風の終端衝撃波面と考えられるリング状の構造(インナーリング)を発見したことである。これまで、最新鋭のX線天文台を用いてもカニ星雲以外の天体からインナーリングが検出された報告はなく、本研究による発見が世界で2番目の例となる。 この発見の科学的に重要な点は二つある。まず、これまで、カニ星雲でしか検証されてこなかったトーラス形成に関する理論モデルを初めて異なる天体に適用して検証することが出来たという点である。本研究ではスペクトル解析、イメージング解析を駆使して理論モデルとの比較検証を行い、従来の理解よりもパルサー風の磁化率が大きいらしいことを発見した。二つ目は、PSR B1509-58のジェットの根元が衝撃波面半径を超えて広がっていることを明確に示したという点である。これまで、パルサージェットの形成機構に関しては基本的な理解すらなされていなかった。近年、数値シミュレーションによって、トーラスを磁気圧で回転軸方向に締め上げてジェットを形成するというシナリオが提唱されるようになってきた。しかしながら、数値解析から得られたジェットの構造は、カニ星雲の非常に細いジェットとは似ても似つかぬ構造であった。これに対し、本研究において我々が発見した「根元の太いジェット」と「高い磁化率」は、数値解析の示す結果と非常に良く一致しており、近年提唱されていたジェット形成の理論的なシナリオを初めて観測的に実証するものである。
|