研究概要 |
19年度は主に、1.ヒュームにおける蓋然性(probability)概念と、2.現代科学哲学における確率の解釈の問題に関する研究を行なった。 1.ヒュームのprobability概念は、現代的な主観的確率の歴史的源流のひとつと言われることがあるが、一方でそれは現代的な確率概念と根本的に異質なものであるという解釈も存在する(B.Gower,1991)。もしこの解釈が正しければ、現代的な確率の概念を用いてヒュームの諸議論を明らかにしようとしてきた非常に多くの解釈が覆されることになる。そこで私は再びヒュームの信念論、とくにGowerが十分に考慮に入れていない『人間本性論』附録におけるヒューム自が加えた修正を包括的に検討し、確率概念に関してヒュームと我々との間にギャップを主張するGowerの解釈は保持しえないという結論に達した。 2.現代科学哲学における確率の解釈の問題は、本研究のメインテーマである、ラムジーの主観的確率に対する関心を出発点としている。確率を個人の「信念の度合い」と見る主観的確率は、科学の現場でいったいどれだけの有用性と妥当性をもちうるのか。今年度はこの問題を、とりわけ人工知能の分野において発展した因果的パスウェイ分析手法である「ベイジアン・ネットワーク」との関連において検討した。 また以上の他にも、人工生命に関する文献の書評を執筆した他、科学哲学者Ian HackingのHistorical Ontology(Harvard University Press,2002)の翻訳を進めた。
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