研究概要 |
本研究の目的は,MIセンサーを利用した走査型磁気顕微鏡を完成させ,これを用いて隕石の残留磁化の起源を探り,原始太陽系磁場強度の決定に結びつけるものである.本年度行った研究の結果,以下の4点について明らかとなった.1.隕石の主要な磁性鉱物であるカマサイト(金属鉄)は磁気センサーからの漏れ磁場程度でも磁化してしまい,この誘導磁化の影響で正確な磁気像が捉えられない事が判明した.この点を解決するため,センサーのバイアス磁場を調節出来る新たな回路を作成し,より鮮明かつ正確な磁気像を捉える事に成功した.2.隕石母天体での熱・水質変成史を考えると,隕石の中で原始太陽系磁場を保存している可能性が最も高いのは,始原的普通コンドライト隕石(タイプ3)である.そこで私はNWA1756(LL3.10)の詳細に観察し,その形成史と磁気像との関係について考察した.その結果,この隕石資料は始原的なコンドライト隕石が粉砕・再堆積した岩相Aと,衝撃溶融・急冷した岩相Bより成り立つ角礫岩である事が分かった.3.NWA1756(LL3.10)の磁気像は,岩相Aに多数の磁気異常を示したのに対し,岩相Bではほとんど見られなかった.これは,衝撃溶融時に残留磁化が記録されなかった事を示唆する.また,磁気異常を示した岩相Aの金属相は風化しており,磁化も2方向に揃っているため,これらは地球上で磁化したと考えられる.4.磁気異常は金属相と対応する小さな物のみならず,角礫やコンドリュール,さらにサンプル全体と対応する大きな物もあった.これはこれらの中で微細な磁性鉱物が同一方向に磁化している事が原因と考えられる.これら4点の成果は,今までExtraterrestrial Magnetismにおいて大きな問題点であった空間的に不均質な磁化分布と複雑な磁性鉱物構成の対応についての理解を大きく助ける物であり,意義深い.さらに磁気顕微鏡の岩石試料への応用・磁気像の解釈についても示唆を与えるため重要である.
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