研究概要 |
隕石は原始太陽系磁場によって磁化し,始原的なコンドライト隕石のランダムな磁化方位はその証拠であると考えられてきた.しかし,熱変成を受けた隕石もランダムな磁化を示すため,磁化のランダムさのみでは初生磁化の証拠とはなり得ず,両者の成因を比較すべきである.前者は母天体集積時,後者は金属相中の微細構造として熱変成時に形成するテトラテーナイトの磁気異方性が原因とされているが,これまでのコンドリュールや金属粒子の拾い出しでは圧倒的に空間分解能が足りないため,結論が出ていない.特に,テトラテーナイトが金属粒子中で示す微細構造と磁化との関係は全く研究されておらず,なぜ熱変成を受けた普通コンドライトがランダムな磁化を持つのかさえ分からない現状である.ゆえに,本研究の目的は,隕石の微細構造に記録された熱史とその磁化の対応を明らかにし,隕石磁化の起源を探る事である. 本年度は磁気マッピングを行う走査型磁気顕微鏡を完成させ,300um,10nTの分解能で隕石磁化を観察する事に成功した.これにより,極弱く磁化した隕石の磁気像を捉える事に成功し,岩相と磁化との関係をサブミリメータースケールで観察可能となった.さらに,フランス共和国CEREGE研究所に滞在し,Ecole Polytechnique所有の光-磁気顕微鏡を用いた超微細磁気像観察を行った.その結果,金属粒子を囲む数umのテトラテーナイトのリムはほぼ磁化しておらず,その内側の<100nmの粒子が密集する微細構造部(クラウディーテーナイト)が磁化を担っていることを世界で初めて明らかにした.このことは,隕石やその母天体小惑星の磁化が,母天体の熱史に依存するnmスケールの微細構造で支配されていることを示唆し,隕石磁化・小惑星磁化の起源の解明につながる物である.
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