研究概要 |
医療機関が医療安全活動を実施するには膨大な資源を必要とするために,当該活動を経済的に支援することの妥当性の検討が不可欠である,しかしながら,これまで医療安全活動の効果を評価する方法論において問題を抱えていたために,医療安全のアウトカムを評価する研究は国内外問わず滞っていた.本研究では,インシデント報告を院内のシステム上の欠陥を具体化させ,同様のインシデントが再現されぬような対策に活かすことのできる有効なツールと位置づけた上で,医療安全活動の実施状況とインジデント報告件数との関連性を検討した.その結果,医療安全活動をより多く実施している施設において,より多くのインシデント件数が報告されていた.したがって,医療安全活動の実施が医療安全を改善させる機会を産む可能性があることが示唆された.また,インシデント報告件数は,院内の報告システムの運用に左右されることも明らかとなった. 続いて,病院感染や医療事故などの有害事象発生に伴う追加的コストを推定した研究の網羅的・系統的な文献評価を行った.これらコスト研究は,医療提供者および医療政策者の意思決定に多大な影響を及ぼすと考えられるが,コストの推定方法はその質において大きなバラツキが認められていた.これら方法論の違いは,コスト計算の推定値にも反映されるために,医療関係者が当該研究を評価するには慎重な解釈を要する.この問題意識に立った上で,本研究では,先ずコスト推定値の質を評価するフレームワークを開発した.その上で,2000年以降に報告された病院感染による追加的医療費ならびに医療安全全体を網羅した有害事象発生にともなう追加的医療費の推定に関する論文の評価を行った.その結果,研究実施前の仮説通り,推定方法は大きくばらついており,推定方法に問題を抱える推定値が他の論文において引用される実態もまた認められた。
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