研究概要 |
医療界では安全水準を測定することが極めて困難であるために,安全活動の効果の検証もまた至難な状況下にある.本研究は,航空業界・化学業界・製造業界を対象にヒューマンエラーの未然防止の上で高い効果が期待できる安全活動についてヒアリングし,その活動を医療界に応用することを目的に調査を行った.その結果,インシデント報告に対する非懲罰化,報告の簡素化を進めることで報告件数が増加する傾向にあることが確認された.しかしながら,調査対象企業においては,安全活動の効果を検証可能な余地を認めたものの,定量的な実証には未だ至っておらず,今後さらなる研究を進めることの必要性が見出された. 一方で,病院感染領域では,病院感染の発生を不安全な状態と捉え,感染による追加的治療コストの測定が可能である.また,当該コスト推計値は,感染対策の重要性を訴求する根拠として,さらに,感染防止方策の経済評価研究の参照値として活用可能なデータにもなりうる.しかしながら,当該コストの推計値は推計方法に大きく依存するという問題がある.そのため,第三者が活用する際には,報告された推計値の自施設・自国における外挿可能性を考慮する必要性が生じ,その検証には推計方法の正確性や推計結果の透明性の視点が不可欠となる.本研究は,2000年〜2006年に報告された英語原著論文を対象に,病院感染による治療コストを推計した論文を抽出し,平成19年度に開発したフレームワークに基づいて推計値の質を評価した.その結果,病院感染による追加的治療コストを推計した研究は50論文が確認され,そのうちわずか7報のみが,透明性・正確性を共に備えた推計値を報告していた.当該コスト研究は,感染対策に向けた資源配分の意思決定を大きく左右するために,第三者が転用可能な結果を報告することが極めて重要になる.本研究は,経済評価研究の新たな視点を呈示するものである.
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