今年度行なった研究は、次の3つに整理できる。1つ目は、これまで行なってきたアジア・太平洋戦争期の「日本地政学」に関する研究を、初めてインターナショナルな場で発表したことである。まず、これまでの研究成果をまとめて、国際学会で口頭発表を行なった。次に、同じセッションの発表者とともに、発表ペーパーを英文書として出版するプロジェクトを始め、年度末に第一稿を提出し終えた。筆者は、「日本地政学」のプロパガンダ活動に関する章と、日本の地政学に関連する資料についてのリサーチガイドの章という2つの章を担当している。2つ目は、課程博士論文の執筆である。アジア・太平洋戦争期の「内地」と植民地である「満洲国」における日本人の地理学者の営為の検討をとおして、地理学者の思想と実践は相互にいかなる関係にあったのかを考察し、「大日本帝国」における地理学と帝国の関係を明らかにしようとした。その結果、植民地における地理学研究は「内地」とは大きく異なった研究環境におかれたものであり、地理学者の思想と実践の相互関係もその環境によって大きく規定されたものであることが判明した。したがって、これら両者を包括したものとして、「大日本帝国」の地理学をとらえる必要があるとともに、こうした異なった環境下におかれた地理学の営為を相互に比較することにより、地理学という知の本質を理解することができるであろうという示唆を得た。3つ目は、満洲研究から派生した発展的課題として、同時期の中国の地理学研究について研究を始めたことである。手始めとして、東京帝国大学に留学した中国人地理学者が帰国後どのような活動をしたかについて、京大人文研の共同研究班において口頭発表を行なった。
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