本研究は造礁サンゴと骨格内微生物の共生系の解明を目的としている。具体的には、骨格内機能性微生物の特定、宿主のストレス耐性に関わるメカニズムの解明、室内実験結果の野外環境への応用について研究をおこなう。今年度は、強光ストレス暴露時に、骨格内微生物が宿主サンゴに対して有する保護効果についての継続実験を進めると共に、骨格内微生物の組成について分子生態学的な解析をおこなった。 現在までの研究で、骨格内微生物は強光ストレス下において、宿主サンゴAcropora digitiferaの光合成活性を保護する機能を持つことが示された。今年度は、自然光下での光保護効果の影響について検証をおこなうため、骨格内に微生物の感染しているA. digitiferaと、感染していないA. digitiferaを屋外水槽で約1年間飼育・モニタリングをおこなった。その結果、実験室内で観察された光保護効果が夏季の自然光下でも同様に観察され、サンゴ骨格内微生物が野外環境においても同様の効果を有していることが示唆された。 骨格内微生物の組成とその可塑性を調べるため、健全なサンゴ礁が維持されている水質環境と、富栄養化が生じている水質環境から採取したサンゴGoniastrea aspeta骨格内の微生物相について、PCR-DGGE法を用いて解析をおこなった。その結果、貧栄養環境な環境に生息するG. aspera骨格内の原核性光合成生物は、富栄養な環境に比べて高い多様性を有していることが示された。また、どちらの環境においても真核藻類の多様性に差は見られず、水質の富栄養化はG. aspera骨格内の真核藻類の多様性には影響を与えないことが示唆された。 今年度の研究結果から、骨格内微生物が自然光下においても宿主サンゴに対して有益な影響を与えることが示され、骨格内微生物のうち原核性光合成生物が重要な役割を果たしている可能性が示された。
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