本研究は造礁サンゴと骨格内微生物の共生系の解明を目的としている。具体的には、骨格内機能性微生物の特定、宿主のストレス耐性に関わるメカニズムの解明、室内実験結果の野外環境への応用について研究をおこなう。 今年度は、骨格内微生物の組成とその可塑性を調べるため、健全なサンゴ礁が維持されている水質環境と、富栄養化が生じている水質環境から採取したサンゴGoniastrea aspera骨格内の微生物相について、PCR-DGGE法を用いて解析をおこなった。その結果、貧栄養環境な環境に生息するG.aspera骨格内の原核性光合成生物は、富栄養な環境に比べて高い多様性を有していることが示された。また、どちらの環境においても真核藻類の多様性に差は見られず、水質の富栄養化はG.aspera骨格内の真核藻類の多様性には影響を与えないことが示唆された。また、富栄養環境に生息するG..aspera骨格内にのみ嫌気性原核生物が生息していることが確認され、その内部環境が嫌気的である可能性が示唆され、貧栄養な環境において、特に骨格内微生物群集は多様性を増し、表層のサンゴ組織を含めた光合成生物マットに似た機能を有していることが考えられた。上記結果は11th International Coral Reef Symposiumにて発表をおこなった。 ストレス耐性サンゴ種G.asperaの骨格内から糸状形態のシアノバクテリアの分離に成功し、マーカーとなる遺伝子領域を増幅して配列を調べた結果、2002年に新属記載された高温耐性と高塩分耐性を有するHaromicronema属(Abed and Garcia-Pichel 2002)の一種であることがわかった。上記の内容はProceedings of the 11th International Coral Reef Symosiumに投稿し受理された。 また、G..aspera骨格内の微生物群集についてPCR-DGGE法を用いて解析をおこなった結果として、窒素固定やアンモニア酸化、脱窒に関わる機能性微生物がサンゴ骨格内に生息していることが示され、栄養塩サイクルに関して、宿主サンゴとの生物学的相互作用に関して現在調査中である。
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