研究課題
貧酸素水塊が水生生物の再生産および生活史初期の加入過程に及ぼす影響を明らかにするため、東京湾におけるフィールド調査を行い、サンプルの解析を実施した。平成20年度においては、東京湾における優占種であるシャコOratosquilla oratoriaを主対象種として、再生産特性の解明および初期生活史段階における減耗要因の探索を実施した。再生産および加入過程に貧酸素水塊が及ぼす影響についての研究を進める上で、まず再生産特性を詳細に把握する必要がある。これまで、雌の生殖周期に関しては、各地の個体群において報告されてきた。一方、雄の生殖周期については陸奥湾の個体群についての報告があるが、雄の生殖器官の識別に誤りがあり、成熟段階の定義に関して問題を有している。そこで東京湾産シャコについて、雄の成熟段階を定義した上で、雌雄の生殖周期および交尾期を明らかにした。2004-2005年に産卵場(東京湾内湾南部)の4定点において、底曳網(目合1.8cm)により雌雄成体を毎月採集した。生殖器官(雄:精巣、輸精管、ペニス;雌:卵巣、受精嚢)の組織学的観察を行い、生殖細胞の発達段階に基づく成熟状態の定義、ならびに雌雄成熟個体および受精嚢内に精子を有する交尾後の雌の出現頻度についての経月変化を体長階級別(<7cm、7-<10cm、≧10cm)に調査した。成熟を開始する体長および時期が雌雄で異なった。雄は着底後体長4cm以上に達した当歳の個体から成熟を開始した。一方、雌は産まれた翌年に体長7cm以上に達した個体から成熟を開始した。精巣内において精細胞または精子が産生されている個体の輸精管およびペニス内に精子の存在が認められた。精巣内の精子産生は1-9月に活発だが、輸精管およびペニス内には精子が周年存在していた。一方、雌の成熟個体および受精嚢内に精子が存在する個体の出現時期には明瞭な季節性がみられ、体長≧10cmでは5-6月、7-<10cmでは7-8月にピークとなった。11-4月の期間には全ての雌個体の受精嚢内において精子は存在しなかった。以上より、雄は周年成熟状態にあるが、交尾は雌が成熟して産卵可能となる期間にのみ行われることが示唆された。次に、資源量変動要因の解明のために生活史のどの時点で大きな減耗が生じるのかを明らかにすることを目的として、生活史初期(産卵、幼生、着底)における量的関係を調査した。また、貧酸素水塊が稚シャコの出現時期・場所におよぼす影響を調査した。2004-2008年に湾全域に設定した定点において、底曳網(目合1.8cm)により成体と稚シャコを毎月採集した。同期間に、NORPACネット(目合0.33mm)の鉛直曳網により幼生を採集した。CTD/DOロガーによる底層溶存酸素(DO)の観測も行った。産卵量、および幼生と稚シャコの密度の指数を算出し、経月・経年変化を調べた。また、各指数の月平均値の間で相関係数を算出した。稚シャコと貧酸素水塊(DO濃度<2ml/l)の空間分布を各月について調査した。産卵量と幼生密度は同様の経年変化を示し、2004、2007、2008年に高かった。一方、稚シャコ密度は2007年のみ高く、産卵量および幼生密度とは異なる経年変化を示した。産卵期は5-9月で、7-8月の産卵量とそれ由来の幼生密度が高かった。稚シャコ密度は12月にピークを示し、これは10月の着底に由来するものと推察された。産卵量と幼生密度の間には有意な正の相関がみられたが、幼生と稚シャコの密度の間に有意な相関はみられなかった。稚シャコは湾全域に出現したが、貧酸素水塊が存在する水域の分布密度は著しく低かった。以上より、現在の資源は夏生まれの個体に支えられていること、親の資源量水準が産卵量と幼生密度の水準を決定すること、幼生〜稚シャコ期の間の生残率に年変動があり、それが当歳の加入量を規定していること、および貧酸素水塊が稚シャコの分布を制限していることが示唆された。
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Fisheries Science 75
ページ: 379-385