分子エレクトロニクスとは、有機分子一分子にダイオードやスイッチといった電子回路素子としての機能を持たせようとする研究分野である。当研究室においては、フォトクロミックジアリールエテンを分子スイッチとして用いようという研究を進めている。これまで当研究室におけるジアリールエテン・金ナノ粒子ネットワークに関する電導性光スイッチングに関しては、すべてギャップ間隔5μmと広い系についての報告にとどまっていた。そのため、単一電子トンネリングや一分子の異性化に由来するデジタル性など、反応の本質に迫る現象は観測されていなかった。そこで、情報通信研究機構との共同研究のもと、ギャップ間隔10nmの狭いギャップにおいての電導性スイッチングに関して研究を行なった。 ギャップ間隔10nmのギャップはエレクトロマイグレーション法を用いて作成した。作成したギャップを平均粒計4nmの金ナノ粒子と別途合成したジアリールエテンを用いて架橋し、ナノギャップを修飾した。この電極に関して、12KにおいてI-Vカーブを測定したところ、トンネル現象を強く示唆するクーロンプロッケード由来の特徴的なI-Vカーブを示した。さらに紫外光照射下において、電流値のデジタル的な変化を観測することに成功した。このデジタル性は、一分子レベルの変化が電導性を変化させていることを示している。この変化に関してさらに詳細に検討したところ、デジタル性が単一電子トランジスタのゲート電圧印加と理論的にほぼ同等の意味合いを持ち、一分子の変化と単一電子トンネリングの効率に相関があることが見出された。
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