まず昨年度に引き続き、植物の受容体とリガンドの結合解析に向けて、出芽酵母(S.crevisiae)を用いた植物受容体の発現系の検討を行った。今年度は、昨年度あまり発現がみられなかった受容体タンパク質を発現させる際に、小胞体の分子シャペロンHsp70、PDI、およびHsp90-7を共発現させ、その発現の改善を試みた。しかし、受容体タンパクの品質および発現の改善は見られなかった。 そこで、今年度は、以前、大量に発現させることに成功していたLysM RLK1とそのリガンド候補のキチンとの結合解析を詳細に行った。このタンパク質は、真菌などの細胞壁成分であるキチンに対して、シロイヌナズナが自然免疫機構を活性化するために不可欠であることが遺伝学的に明らかにされていた。しかし、このタンパク質がキチンの受容体であるか、すなわち、キチンとこのタンパク質が直接結合するかどうかということは不明であった。様々な実験を行ったところ、まず、LysM RLK1は、キチンに構造がよく似たキトサンやペプチドグリカンとは結合せず、キチンとのみ特異的に直接結合することがわかった。さらに、キチンオリゴ糖を用いた競合実験から、LysM RLK1は、9残基以上のN-アセチルグルコサミン残基を認識し、キチンと結合している可能性が示唆された。 今回の研究により、LysM RLK1はキチンと直接結合する受容体であることがわかった。今回の研究結果は、植物の自然免疫におけるキチンの認識機構に新たな知見をもたらした。また、一部の植物では、免疫以外でも、キチンの誘導体がシグナル分子として働いていることが知られているが、その認識の分子機構はほとんど不明であり、その機構解明にも今回の研究結果は役立つと考えられる。
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