研究概要 |
本年度は,地球表層における放射性核種や核分裂生成物の移動・固定・遅延のメカニズムに関する素過程を解明することを目的とし,以下のような研究を実施した. (1)昨年度確立した,高濃度のウランを含む場合のジルコンの局所U-Pb分析法を用いて,天然原子炉付近で発見されたジルコンの局所U-Pb分析を行った.昨年度の研究から,天然原子炉の中でも,地表に近い所に位置しているバゴンベウラン鉱床で発見されるジルコンは風化の影響を受けて著しく損傷していることが確認されている.従来のU-Pb分析では,このような著しく損傷を受けたジルコンに関して,それらが現在までに経験してきた地質学的イベントを解釈することは極めて難しかった.しかし,本研究では著しく損傷を受けたジルコンであっても,それらのジルコンがウランや鉛を損失または付加されたタイミングを確認することが出来た.また,それらのタイミングから,この地域におけるウラン,鉛の移動を引き起こした地質学的イベントが最近の風化であったことが示唆された. (2)昨年度,重点的に研究を行ってきた酸化的なバゴンベウラン鉱床に対して,本年度はより還元的であるオクロウラン鉱床の試料を用い,バゴンベウラン鉱床では調べることの出来ない他の核分裂生成物の挙動について研究を行った.オクロウラン鉱床の中でも原子炉13では,原子炉部分がほとんど風化の影響を受けていないため,核分裂生成物が良く保存されている.核分裂生成物の中でも,Mo-Tc-Ru-Rh-Pdは核分裂反応によって多量に原子炉内に蓄積されるが,それらの核種はマイクロスケールの金属微粒子を構成することが知られている.本研究では原子炉13で見つかった金属微粒子に関して高感度高分解能イオンマイクロプローブを用いた局所分析を行い,その結果,本研究で見出された金属微粒子はこれまで発見されている金属微粒子とは明らかに組成が異なっており,これらの粒子が初期の金属微粒子の化学的特徴を保持していることが確認された.
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