本研究の目的は、ドイツ・ロマン主義、W・ベンヤミン、J・デリダという3つの定点を設定し、これらの視角から人間の生成・変容のメカニズムとしての「ミメーシス概念」を分析すること、そして、このミメーシスという技法にかかわる思想を軸とした教育思想史を再構成しながら、新たな学習論・伝承技法を構想していくための思想的・哲学的基盤を提示することであった。当初の予定に従い、本年度は特にドイツ・ロマン主義とユダヤ思想の関連に着目しながら文献の蒐集・読解・分析を行い、神秘主義、聖書学、世紀転換期の政治神学にかかわる研究に重点をおいて進めた。具体的には、ドイツ・ロマン主義の中のユダヤ思想の影響に関して思想史的観点から文献調査し、またベンヤミンとデリダ哲学的試みに見られる神学的問題やミメーシス概念の読解・分析や彼らとかかわりのある思想(ショーレムとブーバー)について分析を加えた。また、ミメーシスの多様な側面について分析を加えるために、人類学など学際的領域における象徴や儀礼に関する研究到達点を調査・分析し、整理した。さらにドイツ短期滞在により、ドイツでの受入予定研究者だったCh・ヴルフ教授(ベルリン自由大学)と意見交換・指導を受けた。また、ヴルフ教授の共同プロジェクト「パフォーマティヴなものの諸文化」の研究員と意見交換し、国際シンポジウムに参加することで学際的・国際的なミメーシス研究の最前線を調査した。 なお、年度途中での就職により以後の研究を辞退したため、全体の研究は計画通り完遂しなかった。特に18世紀のロマン主義に関する分析が比較的手薄になってしまったこと、またベンヤミンやデリダの思想が生まれてきた背景について、ミメーシスの認知科学的・心理学的側面における知の布置の変容にかんする分析は必ずしも十分に検討することができなかったことなどが課題として残された。個人的に研究自体は継続し、別の機会に論じたい。
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