今年度は、分子内アルケンへのシアン化アリールの付加を検討した。申請者はすでにニッケル/ルイス酸協同触媒を用いたアルキンのアリールシアノ化反応が進行することを見つけている。しかし同様の条件下アルケンの分子間アリールシアノ化反応はノルボルナジエンのような特殊な基質に限られていた。反応の最終段階である還元的脱離よりも副反応であるβ-水素脱離が進行してしまい、アルケンのHeck反応が優先してしまうためである。そこで、アリールーシアノ基結合のニッケル(0)への酸化的付加、アルケンの分子内挿入によって生じるアルキルニッケル中間体がβ-水素を持たないような基質を設計すれば、目的のアリールシアノ化反応が進行するのではないかと考えた。 実際に炭素、窒素およびケイ素を介してつながった様々なアルケニル基を有するシアン化アリールを合成し、反応を検討した結果、アルケンの分子内アリールシアノ化反応が進行し、ベンジル位に四級炭素を含んだ環状構造を有するシアノメチル基置換ベンゾシクロアルカンが収率よく得られた。 また本反応を触媒的不斉合成反応にも展開することもできた。適切に設計した基質を、ニッケル/ルイス酸協同触媒存在下、光学活性配位子を用いて反応を行うと、ベンジル位に不斉四級炭素を有するindoline誘導体やtetrahydronaphthalene誘導体が高収率および高い鏡像体過剰率で得られた。得られた誘導体のさらなる変換反応により、アルツハイマー病治療薬の候補品である(-)-physostigmineの合成中間体の鏡像体である(-)-esermetholeの合成、および鎮痛剤として市販されている(-)-eptazocineの形式的不斉全合成を達成することができた。 これらの知見は、本研究課題を推進するうえで極めて重要である。
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