本年度は当初の計画通りの成果を達成すると共に、派生した研究での成果も得られた。本研究では、「はやぶさ」探査機に搭載した近赤外線分光器の観測データを用いて小惑星イトカワの宇宙風化作用を明らかにし、小惑星の形成進化についての知見を深めることを目的としている。宇宙風化作用は、月や小惑星のように大気の存在しない天体の表面において微小隕石の衝突や太陽風照射の影響から光学的性質が変化する現象であり、その度合いは物質が表面に露出していた時間の指標となる。この効果は近赤外線波長域の反射スペクトルで顕著に変化が見られ、定量的に測ることができる。本年度では、イトカワ表面の光散乱特性の解析を行い、宇宙風化度の分布を見積もる前処理として必要になる測光関数を導出した.測光関数を求めるために観測機器の較正および探査機の位置情報の最適化などの解析も行った。光散乱特性は表面物質の物理特性に依存することから、得られた測光関数をもとにイトカワの表面粗さや粒子サイズを推定した。また、イトカワのような岩塊で覆われた小惑星の表面について連続多波長で測光関数を導出したことは本研究が初めてであり、現在構築されつつある光散乱の理論を裏づける新たな観測結果を得ることができた。これらの成果は学術雑誌論文にまとめて公表した。また、イトカワ表面の測光関数が求められたことにより派生的に、小惑星の非等方的熱輻射による自転進化の研究についての成果も得られた。次年度では、最終的な目標である、イトカワ表面の宇宙風化度の分布について研究をまとめる予定である。
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