研究概要 |
第一採用年度(平成十九年度)内に二本の論文を発表し、現在海外のジャーナルに投稿中です。またこれらの論文は国際学会、及び日本経済学会でも報告をさせて頂いております。拙稿"Separation of CEO and Board : A Comparison of the U.S. and Japan"においては日米の法制度や現実の企業慣行等を踏まえた取締役会に関するモデルを構築し、取締役会のモニターとしての機能がどのような状況で機能不全になってしまうかということを、既存研究では注目されていなかった新しい視点から考察しました。具体的には、Hermalin & Weisbach[1998]"Endogenously Chosen Board of Directors and Their Monitoring of CEOs,"AERにおいては、CEOが取締役会の構成に対して大きな影響力をもっている事を前提に、取締役会がCEOの友人やOBなどといったメンバーで構成されているため、取締役会全体として考えた場合のCEOに対するモニタリング機能はCEOからの独立が確保されていない("lack of independency")がゆえ、弱くなってしまうという結論をアメリカ型のコーポレート・ガバナンスシステムを反映したモデル上で出しています。拙稿"Separation of CEO and Board : A Comparison of the U.S. and Japan"においては、Hermalin & Weisbach[1998]モデルを拡張し、CEOに対する友情・忠誠心、あるいはCEOからの独立といった要因ではなく、取締役会で決断する際に決議に参加する取締役が自分達だけで最終的な企業価値から得られる取締役会に対して支払われる期待利益を独占したい、といった取締役の利己主義("Selfishness")に焦点をあて、このことが取締役会でなされる決議に与える影響について分析を行いました。その結果、取締役会に新しいCEOの就任を必ず伴うCEOの交替は、将来新しく取締役会に入ってくる新メンバーに対しても利得を分け与えなくてはならない為、現行の取締役構成メンバーに対して一定の期待損失をもたらし、それ故CEO交替の可能性を減らす為にモニタリングを減らしてしまう傾向があることを明らかにしました。特にこのことを、日米の法制度や企業慣行を反映したコーポレート・ガバナンスシステムのもとで比較分析をしたところ、CEOが最後まで会社に残った場合に得られるベネフィット(ボーナス・退職金・時期以降の給料アップにつながるような名声)がアメリカよりも低い日本のコーポレート・ガバナンスシステムにおいての方が、アメリカのシステムよりも有効なモニタリングがなされ、また、拙稿"A Theory of Corporate Decisions about CEO Replacement"においては上述のHermalin&Wesibach[1998]の一般化を図り、更に既存研究ではなされていない、CEOの後継者を内生的に取締役会で決断をすることを分析できるモデルを構築しました。交渉ややりとりを説明できる汎用的なモデルを構築し、CEOのクビには欠かせない二つのプロセス:現行のCEOをモニターした結果クビにする事、そしてその次に新しいCEOを選任する事、について内生的に分析を行いました。この理論では外部に優秀なCEO後継者候補がいるのにも関わらず、内部のより優秀ではない取締役をCEOの座に昇進させてしまうといった多くの企業で行われている現状を説明することができます。
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