炭素カチオンは多種多様な有機反応に関わる重要な活性種であり、これまでに膨大な研究が報告されている。本研究の目的は、これまでの研究では不可能であった不安定かつ高反応性炭素カチオン種の発生と反応を高度に制御することにより、従来には不可能であった有機反応の集積化(インテグレーション)を実現することにある。我々はすでに、チオアセタールと低温電解酸化により調製した有機イオウカチオン種ArS(ArSSAr)^+を反応させることで、迅速にアルコキシカルベニウムイオンを発生・蓄積できることを見出している(インダイレクトカチオンプール法)。この反応を、マイクロ反応システムを用いたフロー系に適用することにより、不安定な炭素カチオン種の発生と反応をフロー系を用いて一挙に行なえるのではないかと考え検討を行なった。カチオン中心にアルキル置換基のあるアルコキシカルベニウムイオンの発生と求核剤の反応系を用いてマイクロフロー系における反応条件の最適化を行った結果、アルコキシカルベニウムイオンと求核剤が反応した生成物が良好な収率で得られる条件を見出した。このようにして得られた知見をもとに、フロー系でアルコキシカルベニウムイオンの前駆体であるチオアセタールと様々な求核剤を組み合わせることで、多様な化合物を迅速かつ効率的に合成することが可能となった。また、高速カチオン反応のインテグレーションのひとつの試みとして、分子内にオレフィン部位を有するチアセタールを出発物質とするテトラヒドロピラン環の生成反応についても検討を行なった。ArSSArの電解酸化により発生・蓄積したArS(ArSSAr)^+に対して、オレフィン部位を有するチオアセタールを同モル作用させた。電解酸化に用いる支持電解質がBu_4NBF_4の場合には、フルオロ基を有するテトラヒドロピラン環が得られたが、支持電解質Bu_4NB(C_6F_5)_4に代えたところ、ArS基をもつテトラヒドロピラン環が良好な収率で得られることがわかった。さらに、本反応系はチオアセタールに対して20mol%のArS(ArSSAr)^+を用いても進行することがわかった。この結果は、本反応がカチオン連鎖機構で進行していることを示しており、新しい反応様式のカチオン反応としても注目される。
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