研究概要 |
本年度は主に粉末冶金法で作製した傾斜機能TiNi形状記憶合金(以下SMA)を用いて熱間押出し成形を行い,得られたワイヤの組織形態および力学的特性の評価を行った.本年度の主な研究成果は以下のとおりである. (1)作製したワイヤの相対密度は約97%であり,溶製材のワイヤと比較して空隙が多く存在する.また,形状記憶熱処理を施すことでXRDパターンに鋭い母相のピークが現れる. (2)形状記憶熱処理を施すことによって変態温度の傾斜機能特性が現れるようになるが,変態温度は溶製材と比較するとNi濃度に鈍感であり,ワイヤ両端での大きな温度差は現れない.また,同熱処理により逆変態温度域が急激に狭まる. (3)積層ビレットから作製したワイヤでは,一本のワイヤ内で形状記憶効果と超弾性の両方の特性を示す. (4)冷間引抜き成形により変態温度幅が縮小し,熱応答の良いワイヤを作製できることを確かめた.今後は傾斜機能TiNi SMAワイヤの用途に応じた作製条件の確立が必要である. 本研究では傾斜機能特性を持たせたTiNi SMAを提案しただけでなく,粉末冶金と加工熱処理を組み合わせて作製するというSMAの全く新しい製造方法も併せて提案した.この製造方法によれば変態温度(変態応力)が徐々に変化するTiNi SMAを作製することができ,これを素材としてその後に適切な加工熱処理を行えば所望の形状や形状記憶特性を有する傾斜機能TiNi SMAを作製することができることも示した.今後は実用に向けて冷間加工や繰返し変形が形状記憶特性に及ぼす影響など多くの側面から本材料の特性や製造方法を検討する必要がある.
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