本研究の目的は、島嶼域の動物が進化の過程で飛行能力を失う、というその昔ダーウィンが提唱したユニークな仮説を検証することにある。本研究では、バルーニングと呼ばれるクモの飛行行動をモデルとして研究を進めている。研究場所は、Attenborough Nature Reserveと呼ばれる英国の国立公園。約20年おきに人口の島嶼が採石用の湖上に豊富に形成され、そのほとんどで小型のクモが分布している。島嶼の個体にとってバルーニングは、湖上に身を投げる危険な行為であり、選択圧が大きくなると予測される為、島嶼の形成初期100年内外でこれらの能力の減少が起こるという仮説をたてた。 一年目は全ての作業が予定通り進んだ。採集したクモ個体は約800個体におよび、これらの全てについて一個体ずつ、飛行実験を含む9種類の異なる生態実験を行った。このうち島嶼域の個体は約600個体。これら9種類の実験で記録した行動はのべ60パターンにおよび、データセットは膨大なものになっている。従って、詳細な解析には数ケ月を要するものと予測される。 島嶼に関しては、その形成初期の群集に関する研究例がほとんど存在しない。例えばハワイ諸島はプレートに乗ってベルトコンベアのように移動しており、様々な年代の島嶼が順に形成された。ただし、数十万年から数百万年というタイムスケールにおいて観察できる進化現象のほとんどは、頭打ちになりほぼ安定化している。これらの海洋島は、進化の結果を豊富に観察できる強みがある反面、その過程を分析するという目的には適していない。創始者集団が島に渡り、その急激な環境変化にさらされる最初の瞬間、本研究はこのインパクトを観察可能にする稀有な試みであり、進化の実験室と呼ばれる島嶼の、知られざる初期の姿をつぶさに捉える可能性を有している。
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