本研究の目的は、島嶼域の動物が進化の過程で飛行能力を失う、というその昔ダーウィンが提唱したユニークな仮説を検証することにある。本研究ではバルーニングと呼ばれるクモの飛行行動をモデルとして研究を進めている。Attenborough Nature Reserveと呼ばれる英国の国立公園。約20年おきに人口の島嶼が採石用の湖上に豊富に形成され、そのほとんどで小型のクモが分布している。島嶼の個体にとってバルーニングは、湖上に身を投げる危険な行為であり、選択圧が大きくなると予想される為、島嶼の形成初期100年内外でこれらの能力の現象が起こるという仮説をたてた。 二年目は一年目に行ったフィールド実験で得たデータに基づいた解析を行った。一年目に行った実験は、650個体のクモを個体ごと個別に9種類の実験を行うというもので、設定したファクターも約80パターンを超え膨大な実験データを得た。このデータはコンピュータに入力するだけで2ヶ月を要した。データは大まかに5つのカテゴリに分けられているが、その一部は解析が終了しようとしており、現在バグの修正等確認作業を急いでいる。これらの結果は、21年度中に国際誌に投稿する予定である。 現在、島嶼に関しては、その形成初期の群集に関する研究が決定的に不足している。今回得られたデータには島嶼形成初期の群集において生態的特性が短いタイムスケールで遷移する様子が収められている。創始者集団が島に渡り、その急激な環境変化にさらされる最初の瞬間、本研究はこのインパクトを観察可能にする稀有な試みであり、進化の実験室島嶼の、知られざる初期の姿をつぶさに捉える可能性を有している。
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