研究概要 |
岩石中に含まれるミクロンスケール単結晶鉱物の破壊強度データを基に、現在地表に露出している岩体が嘗て地殻深度10〜20km地点にあった時に生じていた差応力値を推定する方法をマイクロブーディン法と称している。差応力は物体の運動・変形を表す基本的な物理量であり、地殻(差)応力の絶対値は地球上に見られるさまざまな変動様式(プレート間の衝突・拡大,マントルの対流など)を具体的に理解するのに必須な情報である。本研究は「マイクロブーディン法をテクトニクスの研究に応用して、岩石中に見られる特定の変形組織(マイクロブーディン構造)から差応力絶対値を推定し、岩石の変形過程と対応させて定量的な力学の議論を行う」ことを主目的のひとつとし、沈み込みプレート境界域(地震・火山活動が活発な地域)に産する変成帯の典型例のひとつである三波川変成帯(四国東端〜関東域の東西800kmに分布)の古応力解析を四国中央部・紀伊半島西部・静岡県西部・埼玉県西部の岩石試料を用いて試験的に行った。その結果、同じ三波川変成帯中でも高差応力を記録する地域(紀伊半島西部)と低差応力を記録する地域(四国中央部)があり、その差は2倍程度であることがわかった。古応力絶対値の大きさに関しては、サイズ効果を考慮した紅簾石の引っ張り強度から計算すると、四国中央部で平均70MPa、紀伊半島西部で平均130MPaと算出されるが、破壊強度の絶対値は疲労破壊を考慮すると通常の破壊試験で求める降伏強度の1/3〜1/10になる可能性がわかってきたので、絶対値そのものの検討は引き続き今後も行っていく予定である。
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