湖沼生態系内では様々なプランクトン種の間でケミカルコミュニケーション(情報化学物質を介する)が行われており、これが種間競争、捕食-被食関係の面で複雑に係わり合い、プランクトン群集が構成されている。本研究では、富栄養湖で優占種となることの多い、2種のゾウミジンコ(Bosmina LongirostrisとB.fatalis)と2種の捕食性プランクトン(ケンミジンコとノロ)の4者間での捕食・競争関係を明らかにすると共に、それらの生物間関係を撹乱する殺虫剤の影響を、数理解析により明らかにすることを目指してきた。2007年度は、基礎実験によるデータの蓄積を主な計画として、実行してきた。室内実験で得られた結果から、ゾウミジンコの対捕食防御(形態変化)には、個体・個体群成長を抑制するほどの大きなコストがかからないことが明らかになった。また、特にゾウミジンコ(B.longirostris)については、これまでに多くの枝角類で明らかにされてきた、捕食者の情報化学物質(カイロモン・化学刺激)による防御形態の誘導の他に、捕食者との物理的な接触による刺激(物理刺激)によって、特有の防御形態が発現されることが明らかになった。この発見は、国際誌にも論文として発表した。また、これらの実験結果は、実際に野外で観察される捕食者-被食者関係を想定した数理解析を行っていく上でも、重要な情報となる。 もう1つのテーマである、「殺虫剤による生物間相互作用の撹乱」についても、ゾウミジンコにおける、対捕食防御の抑制の他に、2007年度の実験結果から、防御形態の維持(幼体の間のみ、捕食者の有無に関わらず維持される防御形態)にも、殺虫剤が影響することがわかってきた。これについてもすでに論文を投稿し、現在、査読中である。今後、より詳細な捕食実験などを行い、数理モデルの構築を行う。
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