研究概要 |
前年度までに、氷粒子を固定相とするアイスクロマトグラフィー測定が可能であることを示した.今年度は、比較的低い温度領域で氷固定相は水素結合による吸着担体として機能することを利用して,エストロゲンなどの生体物質の分離に適用可能であることを示した.さらに,市販のシリカゲルカラムとは異なる選択性を有し,部分構造の異なる物質に対する識別能力がシリカゲルよりも氷固定相の方が高い場合があることも明らかにした.また,比較的高温での測定を通じて,氷表面疑似液体層QLLの存在を確認した.測定条件を変化させてQLLについて詳細に調べたところ,温度や接している溶媒の組成,氷中の物質の濃度によって層の厚さが変化することを解明した.氷表面を扱う研究の物理や化学研究の多くが,真空下でのスパッタリングや光プローブを用いており,氷の表面あるいは氷とそれと平衡にある水蒸気界面を取り扱っているのに対して,アイスクロマトグラフィーは液体-氷界面を取り扱い,そこでの物質と氷の相互作用についての情報を与える点で非常に独創的な方法である.とりわけ,液体-氷界面QLLでは,液体層からの溶媒の分配が起こりうるので,2成分QLLを形成していることが明らかとなった.これは,他の方法ではプーロブが非常に困難であると考えられる.自然界において,QLLが機能していると考えられている現象がある一方で、液体界面に存在するQLLを扱っている研究例は非常に少ない.この点において,アイスクロマトグラフィーは自然界での氷の働きを理解する手がかりとしても期待できる方法である.
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