前年度までに、氷粒子を固定相とするアイスクロマトグラフィー測定を可能にして、氷表面の性質と氷表面-物質間相互作用を解明した。今年度は、電解質水溶液を凍らせた氷(以下電解質ドープ氷)のキャラクタリゼーションを行うために、氷粒子の形状観察、電解質ドープ氷を固定相とするクロマトグラフィー、X線吸収微細構造解析(X-ray Absorption Fine Struycture:XAFS)測定を行った。 【電解質ドープ氷の観察】0.1mM〜100mMのアルカリ金属塩、テトラアルキルアンモニウム塩水溶液を凍らせて氷粒子を調整して、顕微鏡で氷粒子を観察した。わずか1mMの電解質ドープ氷でも純水から調製した氷との比較で相違が認められた。特に、テトラアルキルアンモニウム塩ドープ氷は、氷粒子同士の凝集が少なく、高分解能分離が可能であった。 【氷相-溶液相平衡共存状態の解析】電解質ドープ氷では、その系の共晶点以上では氷相と溶液相が共存する。これら2相の熱力学的平衡状態を解析するために、電解質ドープ氷を固定相とするクロマトグラフィーを行った。これまでの研究成果と併せて、氷相では吸着、溶液相では分配機構が働くことが示唆された。2相の共存比は温度および塩濃度に依存して変化するので、クロマトグラフィーの保持時間もそれに伴って変化する。これらの結果を、熱力学的に求まる2相の共存比を用いて考察することによって、ドープ氷中の溶液相の大きさを見積もった。また、共晶点以上で氷中に出現する液相が融合して、ネットワーク状のスルーポアを形成することを示唆する結果が得られた。 【氷表面全反射XAFS】高エネルギー加速器研究機構およびSPring-8にて、氷表面全反射XAFS測定を試みた。RbBrドープ氷表面のRb^+とBr^-の水和状態の温度変化を解析するための第一段階として、氷表面X線全反射の装置を考案し、測定を可能にした。
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