核融合エネルギー炉の大型超伝導マグネットに用いることを想定した大電流容量高温超伝導(HTS)導体の開発をめざした基礎研究を行った。近年、HTS線材の開発が急速に進んでいるが、代表的なビスマス2223(Bi-2223)、および、イットリウム(YBCO)系に特有なテープ形状の線材を用いた10kAを超えるコイル巻線用大電流容量導体はまだ開発例がない。本研究では全く新しい試みとして、テープ線材を単純に積層するという導体構造を提案した。これによりセラミック系の酸化物超伝導材料を用いながら機械的に強固で製作性の良い導体が構成できる。ただし、これは、従来の低温超伝導(LTS)導体では選択できない発想であり十分な検証を必要とする。本研究では、まず、HTS導体を実際に試作する前にこのことを確かめるため、LTS/HTSハイブリッド導体という世界で初めて提案した導体を活用することによって、HTS部分に対して極端に不均一な電流分布を与える実験を行った。この導体では、積層したHTS線材間の接触抵抗を小さくする構造を採用していることもあり、電流分布の不均一に起因する不安定性が生じないことを確かめた。次に、実際に10kA級のHTS導体サンプルを試作し、温度を4.2〜30Kの範囲で可変にする工夫をして特性試験を行った。その結果、素線の特性をもとに磁場分布を正確に考慮して予測される臨界電流まで安定に通電でき、導体製作に伴う劣化が生じないこと、また、局所的な熱擾乱を与えるヒータを用いて安定性試験を行ったところ、ヘリウムで直接冷却されたLTS導体に比べて数十倍大きなパワーを入れてもクエンチが生じないことを観測し、HTS導体の優れたポテンシャルを実証することに成功した。
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